MILITARY JIMNY MANIA!! (23)

 
  徒然に・・「ジープやジムニーのフロントウインドウを倒して走行したら違法か?」。

 

 ジープ(JEEP)やジムニーSJ10、SJ30、JA71、JA11の一部はフロントウインドウ(道路交通法でいう前面ガラス・ウンイドシールドともいう)を倒すことができます。

 もともとジープは軍用だったので、フルオープンでフロントウインドウを前に倒すことで荒れ地や草地で身を隠して行動するための構造になっているためです。本来の姿といえますね。なにしろカッコイイし。風圧は凄いけど。

 以前からこのフロントウインドウを倒して走行しても良いか?という疑問は掲示板なんかでもよく見かけます。で、ほとんどの人は「違法らしいよ」と言います。

 でも「なぜ違法なのか?」という問いに対しては、「道交法違反らしい」くらいの知識ではっきりした答えを言った人はいません(汗)。
 
 上記の「違法らしいよ」とおっしゃる方々の根拠が「たしかカタログに書いてあったと思う」とのことですので、早速カタログを見てみることにします。

 三菱ジープJ55の最終生産記念カタログを見ると、公道を「安全のため倒して走行しないでください」との記述があります。「違法」などという言葉は出てきませんね。

 さらにフルオープンジープも真っ青の最近の(2002/5/16発売)市販車も存在します。
 ダイムラークライスラーのスマートクロスブレード
http://www.auto-web.co.jp/newmodel/import/germany/CHRYSLER/SMART_CROSS/


 この車なんて、元々ルーフどころかフロントウインドウも付いてないし。当然バックミラーもなく、デフロスタやワイパーなんて無意味なものも無いのでしょう。

 ちなみにスマートクロスブレードのQ&Aを見ると、

Q、フロントガラスがありませんが、走行中、飛び石などで危険ではありませんか?
また、高速道路を走行しても問題ありませんか?


A、法的な義務はありませんが、運転される方、同乗者の方ともに、
安全のためヘルメットとゴーグル、またはシールド付きヘルメットを着用してください。
となっています。

 この車の存在だけでも充分問題なさそうですが、法的根拠を徹底的に紐解いてみることにします。現在私の仕事は行政指導の関係なので、法を解釈して御託を並べるのは実は得意なお仕事だったりします(笑)。

 自動車に関する法令はたくさんありますが、今回の違法性を問うには以下の基本法令に絞られてきます。

法令データ提供システムより
http://law.e-gov.go.jp/

道路交通法(昭和三十五年六月二十五日法律第百五号)
http://www.houko.com/00/01/S35/105.HTM
下位の道路交通法施行令、道路交通法施行規則での記述はありません。

道路運送車両の保安基準 (昭和二十六年七月二十八日運輸省令第六十七号)
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S26/S26F03901000067.html

道路運送車両法(昭和二十六年六月一日法律第百八十五号)
http://www.houko.com/00/01/S26/185.HTM
下位の道路運送車両法施行令での記述はありません。

道路運送車両法施行規則(昭和二十六年八月十六日運輸省令第七十四号)
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S26/S26F03901000074.html
 
 まず、違法ではないか?とする道路交通法(以下道交法といいます。また、自衛隊車両に関するところは省略してあります)での該当する条文は

 第12節 整備不良車両の運転の禁止等

 (整備不良車両の運転の禁止)
第62条  車両等の使用者その他車両等の装置の整備について責任を有する者又は運転者は、その装置が道路運送車両法第3章 若しくはこれに基づく命令の規定又は軌道法第14条 若しくはこれに基づく命令の規定に定めるところに適合しないため交通の危険を生じさせ、又は他人に迷惑を及ぼすおそれがある車両等(次条第一項において「整備不良車両」という。)を運転させ、又は運転してはならない。


 これにつきます。ちなみに道交法で車両の直接違法性を指摘しているのは第71条〜(運転者の遵守事項) により、消音器を備えていない(あるいは充分なものではない)自動車、座席ベルト(チャイルドシート対象含む)を装着しない自動車と初心運転者標識等の表示の無い自動車くらいなのです。

 では、整備不良車両とはどのようなものをいうかというと、道路運送車両法第3章に記述がありますが、前面ガラスについては 道路運送車両法第3章 道路運送車両の保安基準 第40条(自動車の構造)において、

 自動車は、その構造が、次に掲げる事項について、国土交通省令で定める保安上又は公害防止その他の環境保全上の技術基準に適合するものでなければ、運行の用に供してはならない。
<中略>
10.前面ガラスその他の窓ガラス

があります。

 この「国土交通省令で定める」技術基準っていうのは以下の法令です。
http://www.mlit.go.jp/onestop/hourei_.html#doro
http://www.mlit.go.jp/onestop/hourei_.html#jidousya

 で、前面ガラスに関係のあるのが同第46条(保安基準の原則)だけで、

第46条 第40条から第42条まで、第44条及び前条の規定による保安上又は公害防止その他の環境保全上の技術基準(以下「保安基準」という。)は、道路運送車両の構造及び装置が運行に十分堪え、操縦その他の使用のための作業に安全であるとともに、通行人その他に危害を与えないことを確保するものでなければならず、かつ、これにより製作者又は使用者に対し、自動車の製作又は使用について不当な制限を課することとなるものであつてはならない。

 とあります。この「保安基準」がどこに書いてあるかというと、「道路運送車両の保安基準」であって、

(窓ガラス)
第29条  自動車の窓ガラス(最高速度35キロメートル毎時未満の大型特殊自動車、農耕作業用小型特殊自動車及び最高速度20キロメートル毎時未満の自動車(幼児専用車及び旅客自動車運送事業用自動車を除く。)にあつては、前面ガラス)は、告示で定める基準に適合する安全ガラスでなければならない。ただし、衝突等により窓ガラスが損傷した場合において、当該ガラスの破片により乗車人員が傷害を受けるおそれの少ないものとして告示で定める場所に備えられたものにあつては、この限りでない。
2  自動車(大型特殊自動車、農耕作業用小型特殊自動車、最高速度20キロメートル毎時未満の自動車及び被牽引自動車を除く。)の前面ガラスは、損傷した場合においても運転者の視野を確保できるものであり、かつ、容易に貫通されないものとして、強度等に関し告示で定める基準に適合するものでなければならない。
3  自動車(被牽引自動車を除く。)の前面ガラス及び側面ガラス(告示で定める部分を除く。)は、運転者の視野を妨げないものとして、ひずみ、可視光線の透過率等に関し告示で定める基準に適合するものでなければならない。
4  前項に規定する窓ガラスには、次に掲げるもの以外のものが装着され、はり付けられ、塗装され、又は刻印されていてはならない。

 この「保安基準」にはガラスそのものの性能に関することだけですので、ウインドウ自体の有る無しは関係ありません。

 また、前記のとおり、道路運送車両法第3章 道路運送車両の保安基準第46条(保安基準の原則)では、「道路運送車両の構造及び装置が運行に十分堪え、操縦その他の使用のための作業に安全であるとともに、通行人その他に危害を与えないことを確保するものでなければならず」から、強いて解釈したとしても、ウインドウを倒しての走行が「構造及び装置が運行に十分堪えられず、操縦その他の使用のための作業に危険」と断定するのは妥当性がなく、阻却されると思います。


 さて、疲れてきましたが(笑)、もしもフロントウインドウを倒して走行し、上記のことを知らない警察官に止められたとします(実際に現場の警察官なんてここまで詳しく法令を調べている訳でもなく、もしも止められたとしたら、おそらく聞いた話で「ジープのフルオープンは違法らしいので注意してやろうか」くらいの知識でしょう)。
 もし実行できたとしても「飛び石がぶつかると危険だよ」と注意ができるくらいで、ましてやキップなんて根拠も無いので絶対にきることはできません。

 それは先程述べたとおり、道交法で直接違法性を指摘しているのは第71条〜のマフラーやシートベルトのところ(運転者の遵守事項)と第62条(整備不良車両の運転の禁止)であり、それ以外は警察官(警察署長)の権限ではないからです。

 ちなみに「道路運送車両の保安基準」に合致しない場合の運行停止命令又は指示を行うのは警察官ではなく、地方運輸局長です(当然通常は車検時に実施されることになります)。

道路運送車両法
(整備命令等)第54条 地方運輸局長は、自動車が保安基準に適合しなくなるおそれがある状態又は適合しない状態にあるとき(次条第1項に規定するときを除く。)は、当該自動車の使用者に対し、保安基準に適合しなくなるおそれをなくするため、又は保安基準に適合させるために必要な整備を行うべきことを命ずることができる。この場合において、地方運輸局長は、保安基準に適合しない状態にある当該自動車の使用者に対し、当該自動車が保安基準に適合するに至るまでの間の運行に関し、当該自動車の使用の方法又は経路の制限その他の保安上又は公害防止その他の環境保全上必要な指示をすることができる。
2 地方運輸局長は、自動車の使用者が前項の規定による命令又は指示に従わない場合において、当該自動車が保安基準に適合しない状態にあるときは、当該自動車の使用を停止することができる。


 警察官が道交法第62条に規定する「整備不良車両の運転の禁止」を命令又は指示できるのは先に述べたとおり、

第62条  車両等の使用者その他車両等の装置の整備について責任を有する者又は運転者は、その装置が道路運送車両法第3章 若しくはこれに基づく命令の規定又は軌道法第14条 若しくはこれに基づく命令の規定に定めるところに適合しないため交通の危険を生じさせ、又は他人に迷惑を及ぼすおそれがある車両等(次条第1項において「整備不良車両」という。)を運転させ、又は運転してはならない。

 場合に限られますので、ウインドウを倒す行為が「交通の危険を生じさせ、又は他人に迷惑を及ぼすおそれがある車両等」には該当しないため、間違っても罰則の対象にはならないといえます。


 あと、前面ガラスのないスマートクロスブレードのような車が存在するわけですが、当然「前面ガラスを備えなければならない」記述 は法令にはありません。
 それを裏付けるものは道路運送車両法施行規則の第37条の3で、前面ガラスに検査標章を貼らなければならない記述がありますが、そこには「ただし、運転者室又は前面ガラスがない自動車にあっては」という文がありますので、前面ガラスのない車も自動車として認められていることになります。

道路運送車両法施行規則
第37条の3(検査標章) 検査標章は、自動車の前面ガラスの内側に前方から見やすいようにはりつけることによって表示するものとする。ただし、運転者室又は前面ガラスがない自動車にあっては、自動車の後面に取り付けられた自動車登録番号標又は車両番号標の左上部(運転者室又は前面ガラスがない検査対象軽自動車にあっては、自動車の後面)に見やすいようにはりつけることによって表示するものとする。



 以上をまとめてみますと、

 
  1. 道交法には道路運送車両法に定める「整備不良車両」を運転してはいけない規定がある。
     
  2. なお、整備不良車両とは道路運送車両法等に定めるところに適合しないため交通の危険を生じさせ、又は他人に迷惑を及ぼすおそれがある車両等をいう。
     
  3. 警察官は交通の危険を生じさせ、又は他人に迷惑を及ぼすおそれがある整備不良車両の運転の禁止を命ずることができる。
     
  4. 前面ガラスの構造は「道路運送車両の保安基準」に定められているが、ウインドウを倒しての走行が 道路運送車両法にいう「構造及び装置が運行に十分堪えられず、操縦その他の使用のための作業に危険」とはいえないので道交法でいう「整備不良車両」ではない。

     よってウインドウを倒す、またはウインドウが装備されていない車両が道交法でいう「走行する行為は交通の危険を生じさせ、又は他人に迷惑を及ぼすおそれがある車両等」とはいえない。
     
  5. たとえウインドウを倒す行為が百歩譲って「道路運送車両の保安基準」に合致しないと判断されても、それは道路運送車両法にしたがって車検時等に地方運輸局長の指示による運行停止命令または指示(文書による)のみであり、警察官によって運行停止を命じ、あるいは違反を指摘されることはありえない。

    となります。ふう・・・疲れた。・・・・あの〜、こんな面白くもないコンテンツ真剣に読まれた方、います??(大汗)

 

 さらに追加するとジープのドアウェイのベルトとかSJ10のサイドバーなんかも同じ考えでかまわないと思います。ドアウェイのベルトが無くても交通または他人に直接危険を及ぼすことはありませんので。

「それを言ったらシートベルトも交通または他人に直接危険を及ぼすなんてことはないだろう?」

 そのとおりです。これを言ってしまうと根拠である「道路運送車両の保安基準」という省令から外れてしまい、つじつまが合わなくなってしまいますね。ですので特別の例として省令よりも上位の道交法という法律で直接それを規定したわけです。初心者マークも然りですね。

 6. ジープのドアウェイのベルトをしなくても違反にはならず、走行してもキップをきられることはありえない。

 でも、あぶないのでちゃんとしてくださいね(笑)。

 また、これを書いているときに「それならはみ出したタイヤだって交通または他人に直接危険を及ぼすなんてことはないだろう?俺はキップを切られたぞ。」というご指摘を頂きました。いや、ハミタイの車は、他人に対して危険と判断されるんです。
 これについては法令に明文化されています。「回転しているタイヤがはみ出ていると危険」というわけです。

 根拠条文は道路運送車両の保安基準(昭和二十六年七月二十八日 運輸省令第六十七号)の第十八条 (車枠及び車体) のところです。

 「回転部分が突出していないこと等他の交通の安全を妨げるおそれがないものとして、告示で定める基準に適合するものであること。」

と、あります。この突出をどうやって判断するかは告示でさらに詳細が出ていますが、これがあるために完全に道交法に定められた整備不良であると断言できるわけです。
 さて、ここで聡明な皆様は気がついたと思いますが、ということはオーバーフェンダーがあれば直接道交法には抵触しないということがわかりますね。軽ジムニーにオーバーフェンダーは当然車検は通りませんが、ハミタイでなければおまわりさんにいきなりキップは切られることはありえないわけです。(←ここ重要。但し、おまわりさんは注意は出来ます。毎回。)
 

 ちなみにこの記事は単純にウインドウを倒したりドアウェイベルトなしで走行してその行為自体が違法かどうかを書いています。
 道交法違反にはならないので、当然警察官に止められる必然性はありません。でも、警察官は「なるべく立ててくださいね」とお願いはできます。
 但し、倒した状態そのままでは車検や型式認定は当然通らないと思います(ボルト締めならいいかな?(^◇^;))。
 たとえて言うと、助手席シートがなかったりすると車検は通りませんが、おまわりさんにはキップをきられないのと同じです。

 あと、保険については事故を起こした場合に、その事故とウインドウを倒して走行したことと関連性があるかどうか?だと思われます。
 たとえばカバーをかけたウインドウが急に立って前が見えなくなり、出会い頭にぶつかったとか・・ は関連性大なのでドライバーの責任として搭乗者の場合では減免対象とされる可能性はありますね(汗)。
 お暇でしたら法的検証第2弾「四輪用のETC車載器を軽四輪登録し、2輪車で使用する[自主運用]は違法か?」もどうぞ

 

 

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