ここはhttp://sakai.elec.hkg.ac.jp/sparkplug/newpage11.htm のキャッシュです。
着火性と消炎作用
ガソリンと空気の混合気中に電極を置き電気火花を飛ばすと、電気エネルギー(電圧×電流×秒数〔ジュール〕)が熱エネルギーに変化する。その熱で非常に微小部分のガソリン分子がまず活性化(酸素と化合)されて火炎核ができる。
この火炎核の熱がさらにその周囲のガソリン分子を活性化すると、火炎核は順次拡大し成長して火炎となって伝播していくことになる。この現象は短時間に行なわれるので、いわゆる爆発的に燃焼するわけである。
したがって電気火花が飛んで混合気に着火するかしないかは、まず火炎核ができるかどうか、次にその火炎核が成長するかどうかの2点で決まる。
まず火炎核は電気火花のエネルギー、つまり点火の熱量が十分あること、そしてガソリン混合気の空燃比が適正な範囲にあること、またガソリンが気化されて空気とよく混合されていなければならない。
このような条件で電気火花が飛んで、火炎核ができたとすると、次にその火炎核が成長するためにはある条件が必要となる。
いまたとえばガソリンの混合気の中で図7のように平らな2つの電極を向かい合わせて狭い隙間をつくり、この間に高電圧を加えて電気火花を飛ばしてみる。混合比が適正であればこれにより当然着火し、火炎は急激に成長して燃焼するわけである。ところが、電極間隙がある限度以下に狭くなると、いくら火花エネルギーを大きくしても、ガソリンと空気の混合気には着火できないという現象が現れてくる。
図7火炎核の発生と消炎作用
この間隙を<消炎距離>という。炎を消す距離と書いて、この距離以下では火花エネルギーを多くしても混合気に着火させることができないのである。どうして、このようなことが起こるのだろうか。
それは狭い電極間隙に火炎核ができた場合、その火炎核のすぐ隣には冷たい電極があり、その火炎核の熱が奪われてしまうために隣のガソリン分子をさらに活性化していく力(熱量)がある時間保持できないためである。冷たい電極の冷却作用によって、火炎核が成長できないことから消炎作用つまり炎を消す作用といって、この消炎作用がスパーク・プラグにとって着火性の良否を決める重要な問題となるわけである。
火花ギャップと電極径
スパーク・プラグの火花ギャップは、最低は消炎距離で決まり、最高は電源(イグニション・コイルの発生電圧)の飛火限界で決まるわけであるが、この間における着火性能は火花ギャップによって大きく変化する。
イグニション・コイルの発生する二次電圧や火花エネルギーに十分余裕がある場合には、火花ギャップを大きくすればするほど着火性能は向上する。
これは図8のように、電極付近は消炎作用により火炎核が成長できないためである。火花は飛んでいても着火させる力はなく、電極から少し離れたところからほんとうの着火させる有効な火花となるわけである。
図8冷たい電極の周辺は消炎作用により着火できない
したがって、その着火させる有効な火花の長さを長くすることが着火性をより向上させ、希薄混合気にも着火できるようになるわけである。
つまり火花ギャップを拡大すると相対性に消炎作用が軽減され、ガソリン分子とアークとが接触する機会が増大するために、より薄い混合気でも着火するようになるのである。
ところが実際のイグニション・コイルでは、発生電圧にも火炎エネルギーにも限度がある。たとえば火炎ギャップを広げていくと放電電圧が高くなり、漂遊容量(浮遊容量)として目に見えないコンデンサ成分に蓄えられ得エネルギーが多くなるので、放電開始とともに容量放電成分の多いアークとなる。
このためアーク時間が短くなり、着火性能はプラグ・ギャップとともに無制限には向上していかない。
図9は火炎ギャップと着火性の関係を示した一例である。火炎ギャップを広げると着火性は向上するが、やがて飽和してくることがわかる。
図9火炎ギャップと着火性の一例
またアイドリング時と中速えでの負荷時では、アイドリング時のふがかなり着火しにくいのは、アイドリング時は混合気の絶対量が少なく(真空に近く)、アークが飛んだ時にガソリン分子と接触する機会が少なくなることもその原因のひとつになっている(このためアイドリング時は一般に空燃比が濃くしてある)。
なお市場において、着火性を向上させようとしてプラグ・ギャップを単純に広げることがある。この場合は放電電圧が高くなるために高電圧配電関係の耐電圧不足による漏電やイグニション・コイルの発生電圧の余裕がなくなり、急加速時の失火の発生などが心配されるので注意しなければならない。
中心電極径と着火性
スパーク・プラグの中心電極径を細くすると、飛火性もよくなるが着火性も向上する。飛火性が向上するのは、電荷の性質として尖(とが)ったところに電荷(電子)が集まりやすく、電解密度が多くなって空気の絶縁を破壊する能力が向上するためである。
一方、着火性は中心電極が細くなることによって消炎作用が少なくなるためである。図10はプラグの中心電極径が2.5mmの場合と1.0mmの場合の着火性の比較の一例である。
図10プラグ中心電極径と着火性の一例
火花ギャップが広いときはほとんど差がないのに対して、ギャップを狭くしてくると差が大きく出てきて、1.0mmのほうが着火性が非常に良くなってくることがわかる。
プラグの中心電極径を細くすればするほど消炎作用が少なくなり着火性が向上してくるとともに、飛火性も向上してくる。ということはプラグにとってはよいことばかりということになるが、問題は耐久性(寿命)が悪くなることである。
中心電極を細くすると、熱の放散が悪くなるので、より温度が上昇し酸化が激しくなって電極が消耗してしまう。
電極の材質は一般に耐食性にすぐれたニッケル・カドミウム合金でできているが、それでも電極はどんどん消耗してしまうわけである。
このために、非常に耐食性にすぐれている高価な金やパラジュウムあるいは白金を使って電極を細くしたプラグもある。
中心電極の突出量(プロジェクト量)と着火性
中心電極の突出量を多くすると、火花の飛ぶ位置がエンジン燃焼室の壁面から遠ざかり、より燃焼室の中心部に近づくために混合気の流速の早い場所で火花を飛ばすことになる。
このため薄い混合気でも火花の飛んでいる間(約1ms)に火花と触れ合うガソリン分子が多くなることになるので、より薄い混合気に着火させる能力が多くなるわけで、いわゆる着火性が向上するわけである。
図11は中心電極の突出量と着火限界空燃比の一例を示したものである。着火限界空燃比というのは、ミス(失火)しないで着火させることのできる空燃比農地のいちばん薄い空燃比の限界のことである。この図からわかるように突出量を多くすると着火性は急激に向上していくことがわかる。
図11中心電極突出量と着火性の一例
最近のプラグはほとんどプロジェクト・タイプ(突出タイプ)になっている。なかには希薄燃焼エンジン向けに、図12のような超プロジェクト・タイプともいえるプラグもある(日本電装製ロングJプラグなど)。このプラグは特殊な形状をしているために、適用エンジンが決まっており、いくらよいからといっても他のエンジンに使用すると、ピストンと干渉してしまうので使用できない。いずれにしても、着火性を非常に向上させたプラグである。
図12日本電装製”ロングプラグ”の例